平成15年弁理士試験論文試験意匠法

問 題
米国人甲は、ソファーベッド(背を倒してベッドとしても使用することができるソファー)に係る意匠イを米国で2003年1月30日に開催された展示会で発表した。同年2月6日、米国のある雑誌にこの展示会の紹介記事が掲載され、イも写真入りで紹介された。同年2月25日、甲は、イを米国で意匠特許出願した。その後、日本人乙は、甲がイを日本人の好みに合わせてデザイン修正した意匠ロ(イに類似する意匠)に係るソファーベッドを日本で製造・販売する権利及び日本において乙名義でイ、ロの意匠登録を受ける権利を甲から譲り受けた。そこで、乙がロについて意匠権を取得するために、意匠登録出願をするに際して注意すべきことは何か。あわせて、乙がロだけでなくイについても意匠権を取得したいと考えた場合、イの意匠登録出願に際して注意すべきことを述べよ。

意匠イと意匠ロについて意匠権を取得するための意匠登録出願を行う際に注意すべき点として、①意匠の新規性の喪失の例外の手続き(4条)、②パリ条約による優先権の主張(パリ条約4条)、③関連意匠制度(10条)が主に挙げられ、他の新規性等の登録要件を満たすことによって権利取得が可能になる。


(1)意匠の新規性の喪失の例外の手続き
意匠イは、米国で2003年1月30日に開催された展示会で発表されているため、その後の意匠登録出願では、展示会で発表され、同年2月6日、米国のある雑誌にこの展示会の紹介記事が掲載され、意匠イも写真入りで紹介された。これにより意匠イを意匠登録出願しても3条1項1号、2号に該当し、権利化できない。また、意匠ロを意匠登録出願したとしても、イと類似するため、3条1項3号又は3条2項で拒絶され権利化できないと考えられる。そこで、意匠の新規性の装置の例外の規定の適用を受ける必要がある。
そこで、意匠イ、意匠ロの意匠登録出願について、2003年1月30日に開催された展示会で発表された内容と同年2月6日、米国のある雑誌にこの展示会の紹介記事が掲載され記事について、意匠の新規性の喪失の例外の適用を受ける申請を行う必要がある。適用を受けるためには、①意匠が3条1項1号又は2号に該当するに至った日から6月以内に意匠登録出願を行わなければならない(30条2項)。また、②意匠登録出願と同時に、適用を受けたい旨を記載した書面を特許庁長官に提出する必要がある(30条3項)。さらに、③3条1項1号又は2号に該当するに至った意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面を意匠登録出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない(30条3項)。

(2)パリ条約に基づく優先権の主張
意匠イについては、同年2月25日、甲がイを米国で意匠特許出願している。そこで、日本で、意匠イと意匠ロをそれぞれ意匠登録出願する場合に、米国での意匠特許出願にに基づい優先権の主張を行うことを検討すべきである。優先権を主張しないで意匠登録出願を行った場合、先の米国での意匠特許出願が日本での意匠登録出願前に公開されてしまうと、日本の意匠登録出願は、3条1項又は2項により拒絶されてしまうからである。
優先権の主張手続きで注意をすべき点は、①優先期間が6月であること(パリ4条C(1))、②米国での意匠特許出願の出願人かその承継人である(パリ4条A(1))ことが必要になる。

(3)関連意匠出願制度
意匠イと意匠ロは、お互いに類似するために、それぞれ意匠登録出願を行うと、第9条の適用があり、両方又はいずれかの意匠は、第9条で拒絶されることになる。それを回避するために、意匠イと意匠ロを関連意匠として意匠登録出願を行えばよい(10条)。関連意匠として意匠登録出願を行えば、第9条1項又は2項の適用がなくなる。手続きとしては、いずれか一方を本意匠とし、他方を類似意匠として意匠登録出願の出願手続きを行えばよい。また、類似意匠として意匠登録出願を行う場合は、本意匠の出願日後で意匠公報発行前であれば、出願することができる(10条4項)。